倍賞千恵子の日本の詩をうたう第二集
宵待草
昭和47年6月10日(1972年)発売 SKD-125 \2,000
▲第1面▲ |
▲第2面▲ |
1.宵待草 |
1.城ヶ島の雨 |
竹久夢二作詞,多忠亮作曲 |
北原白秋作詞,梁田貞作曲 |
2.白い花の咲く頃 |
2.からたちの花 |
寺尾智沙作詞,田村しげる作曲 |
北原白秋作詞,山田耕筰作曲 |
3.花嫁人形 |
3.浜千鳥 |
蕗谷虹児作詞,杉山長谷夫作曲 |
鹿島鳴秋作詞,弘田竜太郎作曲 |
4.叱られて |
4.青葉の笛 |
清水かつら作詞,弘田竜太郎作曲 |
大和田建樹作詞,田村虎蔵作曲 |
5.波浮の港 |
5.ここに幸あり |
野口雨情作詞,中山晋平作曲 |
高橋掬太郎作詞,飯田三郎作曲 |
6.湖畔の宿 |
6.岡崎地方の子守唄 |
佐藤惣之助作詞,服部良一作曲 |
日本民謡 |
このアルバムは日本の詩シリーズの第二作。私が多摩湖の赤旗祭りで倍賞千恵子さんに初めてお逢いし、サインをもらったのがこのLPである。いよいよ倍賞抒情歌が冴え渡る感じがする。第二集の解説も大沼正さん、その一部を紹介する。
千恵子考 大沼正(1972年)
歌は三分間のドラマだといわれる。とすれば、歌手が一つの歌を歌っている三分間は、舞台で演技に打ちこむ役者と同じ心構えなのだろう。しかも彼、彼女の歌手は、伴奏という助演者はいるにしても、演じている間は、たった一人、つまり主役なのである。
松竹映画「男はつらいよ」は、ヒット・シリーズものとして第9作目に入るという。この映画における倍賞千恵子の役柄は、主人公・フーテンの寅(渥美清)の妹・さくら。さくらはどこにもいる明るく美しい下町娘、無類の兄思いである。(略)
さくらは映画での倍賞千恵子、舞台での彼女の当たり役は「スカーレット」のメラニ−だろう。強烈な性格のスカーレット・オハラの陰で、いつも神を信じ、夫のアシュレを愛し、病弱な体ながら子を産む。疑うということを知らない女、一種の聖女である。
さくらとメラニー、倍賞千恵子15年の芸能生活を代表するこの二つの役柄は、彼女自身の生活、信条、思想そのものを物語っているといえないだろうか。それは演技の"地"といった単純な表現で片付けるものではあるまい。
「女優だからなんでもやるべき、歌い手だから何でも歌うべきとよく人にいわれます。芸域を広げろということでしょう。たしかにその通りだと思います。が、私は自分自身が納得のゆかない役や歌がどうしても出来ないんです」。(略)
彼女のいう"役"を"歌"に、置きかえてみれば、彼女ならずとも納得ゆくことだろう。
「宵待草−倍賞千恵子・日本の詩をうたう」は、第2集を迎えて、ますます油が乗ってきた。いうまでもなく、そこにはさくらが荒川の土手で、メラニーがアトランタの綿畑で、歌っているムードがただよっている。倍賞千恵子が、はっきりと実在しているのである。
「これからは"役(歌)"を掘り下げる努力をしていきたい」と倍賞が語った東京、帝国劇場の楽屋には、ひっそりとした忘れな草の鉢植えがあった。(略)
倍賞千恵子は、この花を自分の心から、先ごろ亡くなった森川信に捧げたいとぽつりといった。森川は「男はつらいよ」のさくらと寅のおいちゃん(おじさん)である。
「おいちゃんがいない"男はつらいよ"は、どうなるんでしょ。周囲の人の、もちろん私のさくらの胸の中にもどっかと、座っていたおいちゃん。死ぬってことは、この世の中の何処を探しても、いなくなっちゃうってことなのね」。
やさしい心情の倍賞千恵子は、彼女こそ、日本の詩をうたうに、もっともふさわしい歌い手ではないだろうか。